マーケティング

トヨタが特許を無償開放|独占ではなくシェアを優先した理由

「トヨタ的に儲かるものではありません。いろいろな人とビジネスをするというアピールになる。姿勢を示したい」

2019年4月、トヨタ自動車はハイブリッド車(エンジンと電気で走る車)開発で培った23,740件の特許の実施権を無償で開放することを発表しました。
その際、トヨタ社の副社長・寺師茂樹氏が上記のように語りました。

なぜトヨタ社は特許を無償で開放したのでしょうか。

結論からいうとトヨタ社が「独占よりもシェアを優先」したからです。
トヨタ社は「業界No. 1よりも市場を広げること」がトヨタのためになると判断したようです。

それでは詳しく見ていきましょう!

そもそも特許とは?


特許とは「発明を保護する制度」です。
特許制度は発明をした者に対し、国が特許権という独占権を与えることで発明を保護・奨励します。
さらに、出願された発明の技術内容を国が公開し、多くの利用を図ることで、産業の発達に貢献することを目的としています。

特許の対象は「発明」に限ります。
発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です。
*特許法2条第1項
簡単にいうと、特許とは技術に関するアイディアなのです。

特許は発明をした人が独占できる技術ですが、使用料を支払えば誰でもその特許を使うことができます。
特許の使用料は、基本的には特許取得者と使用者の話し合いで決まりますが、一般的には売上の3〜5%程度となっています。
また、使用者が使用を独占したい場合は、売上の10%前後のライセンス料が発生します。

たとえば、トヨタの特許を使って1,000万円の車を1台販売した場合、50万円(5%で計算)の特許使用料を支払う必要があるということです。

前例未聞のトヨタの発表


2019年4月3日。トヨタ社が23,740件の特許の無償開放を発表しました。
さらに2019年4月8日、「車両電動化技術の特許無償提供に関する説明会」でトヨタ副社長の寺師茂樹氏が次のように語りました。

「この取り組みが拡大し電動車の普及が加速することを期待する」

特許の目的は発明した技術を独占し、その市場から他社の製品を駆逐することです。
そして自社で独占したその市場の製品を値上げし、消費者に高い値段で買ってもらうというものです。

特許を開放してしまうと、その特許を利用して同業他社が似たような製品を生み出し、市場は似たような製品で氾濫します。
徐々にそれぞれの製品の大差は見られなくなり、顧客から見ると「どれも同じ」状態になります。
これを「コモディティ化」といいます。

まさに前例未聞のトヨタ社の発表は、社会にインパクトを与えるものでした。

なぜトヨタ社は特許を開放した?


利益を考えれば、特許開放はトヨタ社にとってマイナスです。しかもその数、2万件以上。損失は計り知れません。
それでも特許を開放したトヨタ社のねらいは次の2つです。

①ハイブリット市場のライバルへの対抗策
②環境問題に取り組むリーディングカンパニーとしてのポジション獲得

①ハイブリット市場のライバルへの対抗策

トヨタ社副社長の寺師氏は、「トヨタ的に儲かるものではありません。いろいろな人とビジネスをするというアピールになる。姿勢を示したい」といいました。

現在ハイブリット車には強力なライバルがいます。それは電気自動車です。
電気自動車はエンジンを必要としない車です。
エンジンは自動車メーカーの生命線であり、圧倒的な強みです。

今後、電気自動車が主流になってしまうと、自動車メーカーとしての技術的優位性がなくなります。
その代わりとして、電機メーカーが自動車業界の覇権を握るといわれています。

ハイブリッド車の技術を独占し、同業他社を駆逐して業界No. 1になれば、一時的には儲かるでしょう。
しかし、今後電気自動車が主流になれば、ハイブリッド車の市場は急速にしぼんでいくことになります。
そうなると自動車メーカーとしての存続すら危うくなります。

特許を公開すれば、同業他社が使用料を支払わなくてもトヨタの特許技術を使用できます。
他社が積極的にハイブリッド車を販売すれば、その認知度は高まります。

だから電気自動車が主流になる前に、ハイブリッド車の特許を公開し、同業他社とともに市場を広げる戦略をとったのです。

②環境問題に取り組むリーディングカンパニーとしてのポジション獲得

トヨタ社は自動車メーカーですが、自動車が排出するCO2が問題視されています。

「多くの自動車メーカーと協調し、システムサプライヤーとして電動車の普及に貢献、環境問題に対応していく」と寺師氏が語りました。
自動車メーカーは今まで以上に環境問題に取り組む必要があります。

ハイブリッド車の特許を開放することで、環境問題に積極的に取り組んでいるという印象を与えることができます。

【結論】時代は独占から共有へ。

世界を股にかけるトヨタ社であっても、市場の動きに敏感になり、時にはシェアをする必要があるのです。
時代は、独占から共有へ移行しています。

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